黒皮病という言葉をご存知だろうか。
ソレにかかってしまった哀れなカメラマニアはシルバーボディのカメラでは満足できなくなり
黒いカメラ黒いカメラとうわ言を言いながらカメラの深い沼を彷徨うことになるのだ。
かくいう私も黒皮病の重篤な患者である。
この病気はミームのようにも感染するし、本物のブラックペイントと呼ばれるものに触れてしまうことで接触感染してしまう場合もある。
この恐ろしくも楽しい黒いカメラの世界をお話したい。
気がついたときには手遅れだったことの分かるラインナップ
さてそもそもカメラというとシルバーボディを想像する人も多いのではないだろうか。
それはやはりライカが作り上げたイメージの影響と言わざるを得ないだろう。
M型ライカ発売当時の広告、やはりシルバーボディである
このスタンダードなシルバー仕上げのことを通称シルバークロームと呼ぶ
クロムメッキを使用して仕上げたシルバー外装のことである。
実はM型ライカ以前20年〜30年頃のバルナック型と呼ばれる時期のライカにおいてスタンダードカラーはブラックであった。
しかし年代によってのデザイン変更の流れで、ライカだけでなく多くのカメラがシルバークロームを採用していく。
そんな中戦地や取材に赴くカメラマンや、アンリ・カルティエ・ブレッソンのようなスナップフォトグラファーたちから
目立ちにくい黒い外装のカメラの要望が出てくる。
特に先述のブレッソンがシルバーボディのライカをマスキングテープで真っ黒にして使用していた逸話はカメラマニアにとって耳慣れた話だろう。
さて、ブラックペイントがなぜ生まれたかについての話はこれくらいにしておくとして
一口にブラックペイントというと、マニアから
「ブラックペイント?ブラッククロームとの違いわかってる?」等野次られるかもしれないので
そこだけはっきりさせておきたい。
まず先程から何度も出てきているブラックペイントとは、基本的に黒くツヤがあって外装がハゲると真鍮の地金が顔を出すものを指す。
そして、ブラッククロームなるものは、艶はあまりなく下地はシルバー系や黒である。
経年変化を求める黒皮病患者にとって、この差は非常に大きく、市場価値もブラッククロームとブラックペイントでは差が開いている。
先日オーバーホールから帰ってきたM4
このボディの塗装剥げを見てほしい。
意図した研磨などでは当然なく、長きにわたる使用によって擦れ剥がれている
これを好むかどうかは当然人によるところであろうが、私を惹き付ける黒いカメラの魅力である。
日本が世界に誇る一眼レフの名機、ニコンF
こういった角スレによって縁取りのように真鍮が出てくるさまは螺鈿細工のようである。
一度こういうものを良いと思うようになってしまうと終わりがない…
個体ごとの剥げ方で良し悪しを語るようになったら立派な患者の一人だ。
MR4 meter
カメラボディだけでなく、アクセサリー類までブラックペイントが良いと言い出すともう完治は難しいだろう。
このMR4meterはまだ剥げは少ないが、これからの変化も楽しみである。
ライカのカメラは高いとよく言われるが、それは間違いだ。
ライカはファインダー、レンズキャップ、些細なアクセサリーまで一貫して高いのである。
実はブラッククロームや純正でないものも黒が好きで集めている。
さて話そうと思えばまだいくらでも話せてしまうのだが、きりがないので一旦このあたりで止めておきましょう。
個体ごとの個性やメーカー開発者の思想が反映されたカメラたち、些細な違いから奥深いところまで
本当に深い沼ほど楽しいものですね。
稲葉