2020.01.22
王国
写真家、奈良原一高氏が亡くなられた。1月19日のことだった。
その日は展示の準備など立て込んでいて、ネットニュースを見る余裕もないまま夕方になっていた。
大学時代の教授が家にやってきて、3月に合同でやる展示の話し合いをする予定だったのだが、
やってきた彼女の口から「奈良原一高、死んじゃったね」と聞いて、何を話すのか一瞬忘れそうになった。
彼の作品集『王国』を初めて見たときのことはよく覚えている。
ネットで見つけた画像から作者を調べ、翌週に大学の図書館で見せてもらった。
それからも自分がモノクロ写真を撮るときに、頭の中にぼんやり浮かんでくる作家の一人であった。
絶版状態だった『王国』が再販になると聞いて、すぐに予約購入したのは昨年末のことだ。
奇しくも今月は東京で個展が3つも開かれていたが、まさか亡くなるとは思いも寄らない事だった。
どの業界においてもパイオニア的な存在の方々が亡くなっていくタームに来ているような感じがここ数年ある。
音楽業界でも同じことで、やはりロックバンド全盛の時代は終わるのだなぁなんてことを色んな人とよく話した。
奈良原一高は世間知名度こそ高くないかもしれないが、日本写真界において第一世代の写真家だったと思う。
亡くなってしまったことはもちろん悲しい出来事であるが、これをきっかけに彼の写真を見る人がいるということを考えると
作家として死ぬというのは、そういうことなのだなぁと思う。
今日ここに彼の作品や、『王国』の写真を載せたりはしないが、どこかで一度彼の写真を見てほしい。
僕なんかの推薦が必要なレベルの作家でないことは重々わかっているが、彼の一人のファンとして
彼が亡くなる前にここに記事を書けなかったので、せめて推薦だけでもしておきたい。
『王国』はそれくらい僕には影響のあった本の1冊である。
作家は屍の代わりに作品を残すのだ、とは誰の言葉だったか忘れてしまったが
本人が居なくなっても残るものがあるのは確かであろう。
稲葉
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