Toshihiro Inaba Original Printのヴィジョンが明確になったのは、「穴と釘」の写真がきっかけでした。
見続けていると露出がハレーションを起こすような、モチーフが何か別の流動体見えてくるような、僕は「穴と釘」がだんだんといやらしいものに思えて、それがえらく面白いと思いました。
そういう素の酩酊状態ともいえる現象を「ひだまりのサイケデリック」と名付けて、稲葉のアーカイブの中で人気らしい風景写真は排除して、抽象と具象のあいだを意識した作品を選びました。
中にはよりテクスチャに焦点をあてたくて、あえてトリミングを施した作品もあります。
予め完成している作品を編集することを良しとした稲葉は、写真を瞬間の記録媒体としてより、ある視覚効果を起こすトリガーと捉えているのかもしれません。
日常で目にしたことのある風景がシャッターに切り取られ陰影が深まることで、別の何かが立ち上がる美しさを感じてくれたら嬉しいです。
山下